海に還るための服

「自分が死んで焼かれるときに着る最期の服を、とてもきれいな白い服をとてもきれいに縫う」

 

のがこっそり私の夢です。

 

 

 

死装束はさておき白い服を作りたいなと思っています。生きているうちの喪服です。

喪服というと黒ですが、それは恐ろしくて忌むべき事を表しているのでしょう。でも私は死には白が1番ふさわしいと思っています。

なぜなら死は「空白」だから。そして死の意味をのせた白は、この世で1番強くてうつくしい色だから。

 

以前、真冬の夜に真っ暗な海を見たことがあります。地球は丸くて星は輝いていて、海と空の境目がわからないほど目の前は黒く、風がビュウビュウと吹いて、私は孤独を理解しました。どんなに幸福だってどんなに不幸だって、命が尽きたらたった1人でこの地球に還るのだとはっきりとわかりました。

 

もともと生命は海から生まれました。真っ白な何もないところから突然「生まれて」、歴史を経るごとに世の中の雑事に揉まれてたくさんの色を纏うようになりますが、焼かれて骨になったらまた白です。「空白」という「無い」状態に戻ります。そして物質的には地球と海に還るのです。

これを必然と言わずしてなんというでしょうか。これほどに強くてうつくしいものは人間には生み出せません。

 

私にとって死ぬことは「海に還る」ことです。

だから生きて行くことも「海に還る」ための過程です。

 

なので海に還るための、生きて死に向かうための服は、いっとう強くてうつくしい「白」でなければなりません。

 

 

 

生きているのは楽しい、という人はもちろんそれで良いと思うけど、そう感じられない人もたくさんいます。それなら、生きてるうちから白い喪服を身に纏って、生命と海の約束に癒されたり、それを着て誰も知らないところへお散歩に出てみるのも、いいのではないかなと思います。